私「木嶋先生…。」



木嶋先生は、つかつかと小宮先生の前まで行くと、机の上にほおり出されていた紺色の紙袋をつかみました。


担任はグレーの椅子に座ったまま、憮然とした表情のまま言いました。



担「何をする。

それは私のモノだ。」



木「これは返させてもらいます。

僕がいただいたのは、今家にありますから、明日持ってきてお返しします。」



担「はぁ?お前、何様のつもりだ?

私からの好意を無下にするつもりか?」



木「それは、こっちのセリフです。

たいして親しくもないのに、いきなりお歳暮をおくりつけられても迷惑なんですよ!

普段からそうやって、人を見下している。

今だって、立ち上がろうともしない。

そんな失礼な人間とは親しくしたくもないんですよ!

それでも、なにかと物を贈ってくるから、内心では反省しているのかと思って耐えていたんです。


でも、限界です。

以前いただいたコーヒーは封を切ってしまっていますから、弁償してお返しします。

こんな子供にヒドイことを言う人間を同じ教師として認めません!」



担「くくく。

それはお互い様だ。

私もお前みたいな人がいいだけが取り柄の人間と親しくするつもりもないわ。

後で悔やんでも後悔するなよ?」



木「小宮先生、さきほどこの子に言ったことを訂正してください。」



担「聞いたか?しんじゅ。

この教師は安っぽい正義感でお前を助けたつもりだが、お前の足を引っ張っていることに気づいていないぞ?

お人好しどうし、残念な傷の舐め合い合戦だ。」



私「?」



担「ここまで言っても気づかないか。

お前はきっと善良にできているんだろうなぁ?」



私「?」



担「善良な人間というのはえてして他人に利用され、使い捨てにされる運命にある。

本当にお前たち親子はそっくりだ。

そして、お前たちは今、崖っぷちにいるぞ?」



木「小宮先生!

子供に謝ってください!

それが人としての正義だ!」



担「ほらほら?

こういう人がいいだけの無能は、私のような人間のおこぼれにあずかるのが一番賢明だと気づかない。

世の中には本当に残念な人間が多くて、困るよ。」



木「先生!

子供に対して死ねとか、もう、それは暴力です。

母親に対しても、人権侵害ですよ!」



担「余計な口出しはやめてもらおう!

担任する児童をどう扱おうが、私の自由だ!」



木「いいえ!あなたのはもう、常軌を逸しています!

犯罪に等しい!」



担「若輩者が、私に口出しするなっ!」



木「っ!

この児童が居る前では黙っていようと思っていましたが、もう我慢の限界です。

あなたは普段から、気持ち悪いんですよっ!


しょっちゅう頭痛がすると言って、授業を抜ける。

代わりに僕が自習の連絡をしています。

それなのに、病院に行ったからすっきりしたとか言って、お礼に突然刺身のパックを持ってくる。」



私「!」



木「なんで、病院に行ったのに、刺身のパックをたくさん抱えて帰ってくるんですかっ!

あのお歳暮にしたって、そうです。

突然、学校の机の上に一度に何人も同じものが置いてある。

この学校だけでも40人以上配っているんですよ!


お歳暮だって、いわれなきゃ、なんなのかわかりませんよっ!

ノシも包装もしていない、ただの箱詰めをいきなり、ポンって、意味が分かりませんよ。


それも8人ずつとか10人ずつとか。

しかも、値札がついたままや、フタがなくてラップでくるまれている奴だったり、飾り棚が箱にくっついた状態のやつまである。


いったい、どこから持ってきているんですか!」



担「くくく。

いいぞ?傑作だ。

しんじゅ、この男はお前を助けようとして、さらにお前を追い込んでいるのに気づいていない。

どこまでのんきな奴なんだ(笑)」



私「?」



担「ここまで言われても気づかないのか?」



私「?」



木「小宮先生、聞いているんですか!?」



担「黙っててもらおう!

今はこの児童に質問をしているんだっ!

どんな珍回答がでるか、楽しみなんだよっ!」



木「あなたという人はっ!

どこまで人の気持ちを踏みにじるんですっ!

お菓子もコーヒーも慰労の気持ちだからと言われて受け取ってましたけど、全部お返ししますっ!


だいたい、あのお歳暮、いったいどれだけお金が掛かっているんですかっ!

僕たちと同じお給料で、いったい何十万使っているんです!」



担「はっ!お前ら庶民と違って、私には金の成る木があるんだよっ!

おとなしく、私のおこぼれに預かっていろっ!

なぁ、しんじゅ、お前、この話を聞いて、どう思う?」




担任は立ち上がり、ふんぞりかえりながら、胸に手をあてて言い放ちました。

女性にしては背の高い小宮先生は、木嶋先生を完全に圧倒していたのでした。




私「え?」



担「さっき、表情を変えたろ?

なにか、思うところがあるんだろう?」



私「…いえ、私の気にしすぎかもしれないので…。

間違っていたら、先生に悪いですし…。」



担任は満面の笑みを浮かべて、私の前に立ち、肩にそっと手を置いて言いました。



担「私のことなら気にするな。

この男の話を聞いて、なにかを感じたんだろう?

正直にすべて、包み隠さず話せ。

その方が、私も教師として安心する。

お前の成長をなによりも願っているんだ、遠慮なく話せ。」



私「え…いいんですか?」



担「あぁ、いいぞ?

気兼ねは無用だ。


さ、木嶋先生もだまっていてもらおう。

この児童の考えを尊重してもらおうじゃないか。

ただし、なにか質問してきたら、正直に答えてやって欲しい。

それが、お互いのタメになるのは確実だからな?ククク。」










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