ガタガタ、ガシャン、パシャーン、ぼとん、カラカラカラ…。
ガランガラン…。
子供たちはテーブルの上に置いていたノートや教科書を取り落とし。
自分たちが腰掛けていた丸いパイプ椅子をひっくり返して、転んでしりもちをつく子供もいました。
私と同じ班にいた子供たちがパニックになっていました。
私はごくりとつばを飲み込み、血の気が引いて、心臓がバクバクと嫌な音を立てて早鐘を打っているのを感じながらも、さきほどまで自分がいた場所をパイプ椅子に座ったまま、黙って眺めていました。
そこには白い湯気を立てる水たまりができており。
ステンレス製のテーブルや床に、どんどんとその陣地を拡げていったのでした。
私が息を飲んで背後を振り返ると、石綿製の耐熱手袋を片手にはめたアイちゃんが、高く手を持ち上げて、空になった逆さまのビーカーを振りながら、残念そうに、私のことを見下ろしていました。
男子「な、な、なにやってんだ!吉崎っ!」
女子「あ、あ、なに、今の…。」
男子「なにが…いったい、なんでこんなことを…?」
同じ班の子が、口々にそう言うと、アイちゃんは朗らかに微笑みながら答えてきました。
アイ「あれ~?
みんな、驚かしちゃった?ごめーん!」
私「…………。」
女子「あ、あ、あやまって済む問題じゃ…。」
男子「な、な、なにをそんな、あっけらかんと…。」
アイ「えぇ~?みんなも残念だったねぇ?
これ、こんな風で。」
古橋「おい、そっち、騒がしいぞっ!
うわっ!吉崎、お前、何をっ!
まさか、お前、さっきの熱湯をしんじゅにっ!」
男子「ね、ね、ね、熱湯っ!?」
女子「あ、あんた!なにをしてんのっ!
熱湯を人の頭にふっかけるなんて、正気の沙汰じゃないよっ!
ふ、ふざけてんのっ!」
男子「そうだ!
お前、なんの嫌がらせだよっ!
しんじらんねぇよっ!」
女子「こ、怖いわっ!」
女子「な、なんなの、いったい。」
男子「し、信じられない…。」
私「…………。」
アイ「えぇ~?だから、謝ったじゃな~い。
驚かせて、ごめんねって。」
女子「そ、そういう問題じゃないっ!
それに、無事だったからよかったものの、アンタ、この始末、どうつけてくれるのっ!」
アイ「えぇ~?
ちらかっちゃったことぉ?」
女子「そ、そうだよっ!
それもあるよっ!
その子の教科書とか、ノートとかぐちゃぐちゃじゃないっ!
テーブルも、床もビショビショだよっ!
いったいぜんたい、どーゆー理由でそんな事したのっ!?」
アイ「だからぁ、この豚みたいな顔の子は、いなくなったほうがいいから、お湯をかけた訳。」
女子「はぁ!?謝らないのっ!
この子にっ!この班の子にっ!」
アイ「だって、この子がよけるからいけないんじゃない。
それに、床掃除しろっていう話なら、この子が床に寝そべればちょうどいいんじゃない?
雑巾みたいな顔してんだし、この子自体、ゴミ箱に捨てられて当然なのよ?
床掃除なら、このボロっちい雑巾みたいな服着ているんだから、這いずり回って掃除しなさいよっ!
そうしたら、やっと人の役に立つってものよ?
このゴキブリにはそれがお似合いよっ!」
女子「アンタ、鬼かっ!」
男子「ヒッ…!」
女子「キャ…!」
男子「は?」
女子「こ、怖い…。」
私「………。」
私は黙って、床の上を広がっていく、白い湯気をたてる水たまりをぼうぜんと眺めていたのでしたが。
女子「ちょ、ちょっと!アンタ、こっち来なさいっ!
早くっ!」
と、向かいの席に座っていた女の子が私を高速で手招きして。
女子「ちょ、椅子もって、いや、もたなくていいから早くっ!」
私は促されるまま、向かい側の席に行くと、その子は私の手を引いて、自分の隣に座らせました。
女子「いや、やっぱ、こっち側。
こっちで、女子で挟もう!
あの子、ヤバイ!
本気でヤバイ!
近づけちゃ、ダメだっ!
男子、その子、こっち側に来ないようにしてっ!」
その子は自分と、もう一人の女子生徒との間に、私を座らせると、向かい側に座っている男子にそう言いました。
男子「お、おぅ!」
男子「わ、分かった!」
担任「なんの騒ぎだ!
お前たち、騒がしいぞっ!」
私たちの担任の先生がやってきました。
アイ「せんせ~!しんじゅさんが、突然ぶつかって来てぇ~。
私、真面目に授業を受けていたのに、この子のせいでお湯をこぼしちゃったんですぅ!」
担任「なに?」
女子「なに!?」
男子「なにを!?」
アイ「それを、なんかぁ~?
この子が自分がやられたって感じで騒いでぇ~。
私、いい迷惑なんですぅ~。」
担任「またお前が騒ぎの張本人かっ!しんじゅ!」
私「!」
男子「!」
女子「!」
男子「!」
女子「!」
アイ「そうで~す!
しんじゅさんが、すべて悪いんで~す!」
私「…ちがいます。」
担任「分かった。
嘘をついても、いずれすぐにばれる。
しんじゅ、謝るなら、今のうちだぞ?」
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