兄は自分の額に自分の手のひらをあてて、しばらく黙り込んでいました。



私「お兄ちゃん…?」



兄「あぁ…。くそ、めまいが…。」



私「大丈夫?」



兄「いや、スマン。

ちょっと血の気が引いて、めまいがしてきた…。」



私「どうしたの?」



兄「…お前の置かれている状況が俺の想像以上に過酷だということに今の今まで気づいていなかったんだよ…。」



私「え?」



兄「完全に盲点だ。

獅子身中の虫とは、こういう事だな…。


お前の敵は、学校の担任やいじめを繰り返すクラスメイトだけじゃない。

こんな身近に…。

家庭内に敵がいるとは、俺は思いもよらなかったんだ…。」



私「なんのこと?」



兄「…母ちゃんだ。

思えば、確かに、変なんだ…。

お前のことを思うなら、もっとさっさと学校に苦情の一つでも言いに行きそうなものを…。

俺はてっきり商売的にマズイから遠慮しているかと考えていたんだが…。

そう、お前に対する態度と、俺に対する態度にかなりの温度差がある。」



私「お母さんはお兄ちゃんのことが好きだよ?

あ、薫もだね…。」



兄「あぁ…。

薫はまだ幼稚園児だ。

手のかかかる年頃だし、なにより兄妹の中で一番幼い。

母親として末っ子に気が行くのは当然だと思っていたが…。

なぜ、こうも俺とお前で態度が違うんだ?

俺は気づいていなかった…。」



私「え?お母さんは私とお姉ちゃんには、いつも厳しいよ?」



兄「あぁ、ここは男尊女卑の気風の強い閉鎖的な田舎だし、跡取りである俺を可愛がることに特になにも違和感を覚えていなかったから、多少の事は気にならなかったが。

今までの話を整理すると、異常なんだよ…。」



私「え…?」



兄「お前の周りは敵だらけだ。

義務教育中の小学生だというのに、学校には誰も味方がいない。

そして、家庭内でも母親と姉に無視され続けている。


父ちゃんは基本、なんの役にも立たないし。

幼稚園児の薫も幼くてなにも戦力にならない。


お前は俺が思う以上に孤立無援な状態だったんだ…。」



私「え…?」



兄「お前、どうしてもっと早く、俺にそれを告げなかったんだ。

母ちゃんに冷たくあしらわれていると。」



私「だって、それは私が悪い子だから…。」



兄「くそ!こんな強固な洗脳がされていたとはっ!

迂闊だった!

お前、辛かったろうに、どうして誰にも相談しなかったんだ!」



私「だって、誰も私の話を聞いてくれる人がいないし…。」



兄「…そうだ。

そうだったんだ、なぜ俺は今まで気付かなかったんだ。

お前がハキハキといつも話すから、気づいていなかった。


そんなハズがない。

クラスメイトにたびたび命を狙われている。

常に死の危険ととなり合わせだったのに…。

通常の感覚がマヒして当たり前だったんだ…。」



私「お兄ちゃん、大げさだよ?」



兄「…ちがう。

お前が強くて毎日学校に行っているんじゃない…。

お前は自分の感覚を鈍磨させることで、むりやり現実に適応していただけなんだ…。


当たり前だ、通常なら登校拒否、引きこもり、自殺していたっておかしくない状況なんだ…。

こいつは泣き言を言いもせず、必死になって、家の手伝いもし続けていた。


それを母ちゃんはペロっと嘘をついて、泥棒の濡れ衣をかぶせられ、こいつは父親に真っ先に警察に突き出される真似をされている…。


こんな真っ正直な奴が、こんな幼い子供が、そんな扱いを受けて傷つかないハズが無い…。

自分の心の痛みに鈍感になるしか、生きていけなかったんだ…。」



私「お兄ちゃん、大げさだよ?

しんじゅは大丈夫だよ?」



兄「…ちがう。

これは見せかけの姿だ…。

お前はとっくにうつ状態だったんだ…。


これだけの知能を持った人間が、親の嘘や欺瞞に気づかないハズがない…。

自分が悪いから、責められているんだと、むりやり納得させていただけなんだ…。


お前は、俺を除いて、全方位敵だらけの状態に長期間置かれていたんだ…。


そんな状態の人間が、判断が誤ってもおかしくない。

本来なら親に保護されているべき時期の子供なんだから…。


それが、なぜ、こいつはこうも周りに責め立てられ続けられなければならなかったのか…。


気付かなかった、お前はずっと長い間、一人で針のむしろの上に座っていたんだな…。


俺に向ける笑顔の奥で、心の中では血の涙を流していたんだ…。


俺は、ずっと妹の心の悲鳴に気づいてやれなかった…。


すまない…。

本当にすまない…。」




兄は、泣き出してしまった…。










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