(おかあさん、はやくかえってこないかな…。)



私はお風呂に入らず、薄着をしたまま、布団の上に座って待っていました。

もう、今夜からおとうさんと寝なくていい…。

それに安堵しながら、母親が帰ってくるのを待っていたのでした。


父は離れに自分専用のオーディオルームを持っていて、毎夜クラッシクなどを聞くのを楽しみにしていました。

母親はそこへ出向き、父親と話をしてくると言いおいて私を置いて出て行ったのでした。


季節は11月のあたま。

お風呂に一人で入るのがおっくうで、かと言って一人で寝るのはさみしくて、電気をつけて一人で待っていました。

赤ん坊はスヤスヤと眠っています。


しばらくしたら、物音が聞こえて。

母親が帰ってきたようで、私は気持ちを弾ませて部屋の入口そばで待っていました。


すると、母親が扉を開けて、入ってきました。

髪の毛は乱れて、顔はうつむいたまま、メガネもこころなしか、ずれています。


私は母のその様子に、なにも頓着せずに、母親に飛びついてしまったのでした。



母「イタッ!!」


すると、母親は私を力いっぱい突き飛ばしました。


どたん、ガツッ!!


尻餅をつく格好で、床に倒された私は、そのまま後頭部をタンスに強打します。

ちょうど引き出しの間に頭をぶつけた格好で、二箇所鋭角的にぶつけて、かなりの痛みを感じて、ビックリしました。



私「え…。」


母「この悪魔っ!

子供の皮を被った悪魔っ!」


私はめまいをおこして、ビックリしつつ、母親の言った『悪魔』を探して、目をキョロキョロと泳がせたのでした。


自分の背後には大きなタンスがあり、木目がぎっしりと詰まって見えます。

その一つの模様が、まるで『ムンクの叫び』の人物のようにもみえて、もしかして、母親の言っている悪魔とは、これのことだろうか、とぼんやり考えていると。


母「お前の事だよっ!

お前たちが私を不幸にするっ!

馬鹿にしてっ!

子供のフリして、アタシの事を馬鹿にしていたんだろうっ。

何、自分は関係ないフリしてんだ、この悪魔っ!

お前が生きているだけで、アタシを苦しめるっ!

なにも知らないフリして、私をわらってたんだろうっ!!

あぁっ!!」



母親は私の目の前で崩れ落ち、両手で顔をうずめて泣き始めました。


私は、脳しんとうをおこしたようで、めまいが収まらず。

『悪魔』と罵る母親の姿をぼんやりと見つめながら。

恐怖でおしっこをチビってしまったのでした。


『悪魔』の言葉は、上の兄弟たちが話していたことがあって。

あまりいい意味ではないと、ぼんやりと理解していたこともあったのですが。

次の母親のセリフに、衝撃をうけてしまったのでした。



母「あぁ…。

この子もキズモノになってしまった…。

もう、この子は、まともな男性と結婚できない。

もう、この子はカタワになってしまった。

かわいそうに、もう、マトモな男の人に相手にしてもらえない。

あぁ…。」



今度は、母親は私を哀れんで泣き始めました。


『キズモノ』の言葉に、私の脳裏に、かつて父親とのやり取りが思い出されました。


不機嫌そうに、父親が、陳列してある商品の一部をダンボール箱に投げ捨てています。


それが、何かと私が尋ねると、父親は『キズモノ』だと答えます。


キャベツの一番外側や、ネギの茶色く乾燥しかけた部分や。

果物の熟れすぎたもの、茶色く変色しかけたバナナや、傷のあるりんごなどが、無造作にダンボール箱へと投げ込まれていました。


父「キズモノだ。

商品にならない、ゴミと一緒。

生ゴミだよ。

肥溜めといっしょで、腐らせるしかない、どーしよーもない奴だ。」と。



(しんじゅちゃん、キズモノ…。

ゴミといっしょ…。

どーしよーもないやつ…。)



私はガタガタと震えて仕方がなくて、恐怖にとりつかれていました。


さっきまで、お母さんが帰ってきたら、抱きしめてもらえると思っていたのに。

もう、怖いおとうさんとがまんして寝なくて済むと安堵していたのに。


期待が壊されて、心の均衡を保つことができなくて、震えていました。



母「あぁ…なぜ、みな、私を苦しめるの?

なぜ、私ばかりこんな苦しい思いをしなければいけないの?

お父さんがいないと、生きていけないのに。

この子が、私を苦しめる…。

あぁ…。」


母親が泣き続けているのを見て。

私は直感的に、自分は見捨てられたのだ、と気づきました。


私の脳裏に、以前、父親と観た、テレビのワンシーンがよみがえります。

それは、野生の王国的な、動物のドキュメンタリー番組で、ライオンの家族の放送をしていました。


サバンナで暮らす、ライオンの家族たち。


その中でも赤ちゃんライオンは、頭の割に手足がずんぐりむっくりとしていて愛らしくて。

可愛いなぁと私はライオンの赤ちゃんを見つめていたら、大人のオスライオンが赤ちゃんライオンのクビを噛み、そのまま食い殺してしまいました。


私は驚いて、父親にどういうことかと尋ねると。


テレビのナレーションで、『この群れは最近リーダーの交代が行われたばかりで、この子ライオンは前のリーダーの子供だったようです。

若いオスライオンは、前リーダーのメスたちをすべて自分のモノにしたのですが、前リーダーの子供の存在が許せなかったようですね。

通常は子供共々新しいリーダーの所有物として、群れとして存続させるものですが、このような行動をとるオスライオンは非常に珍しいです。』


そんなナレーションが流れてきていて。


私は父親に向かって「あかちゃんらいおんがたべられちゃった。

おかあさんらいおんはどうしてるの?」と涙目で訴えると。


父「メスは新しいオスに従うものなんだ。

前の旦那の子供を殺されても、また新しい子供を産めばいいと思っているのさ。」


私「あかちゃんらいおんがかわいそう。

たすけてあげて。」


父「メスは馬鹿なんだ。

自分の子供が食われても知らんぷり。

自分の居場所を作るために、自分の子供を殺されても、見殺しにしているのさ。」


私「おかあさんまもってあげないの?」


父「あはは、これは動物の話。

人間は、そんな事しない。

しんじゅは、お父ちゃんの子だから、大丈夫、おとうちゃんが守ってやるよ。

安心しろ。」



父親は笑いながら私のおかっぱ頭に手をおいて、なでてきました。


そんな一瞬の記憶のフィードバック。


目の前で泣き崩れている母親は、今、自分を見捨てた。

それを肌で感じた私は、脳内が沸騰するような恐怖にとりつかれました。



(おかあさん、しんじゅのこと…。

あの、あかちゃんらいおんとおなじ。


しんじゅ、おとうさんにまもってもらわないと…。

おかあさんにまもってもらわないと…。


おとうさんに、がつん、やられて、しんじゅ、こわいのに。

おかあさん、おとうさんのほうが、だいじ。


しんじゅのこと、あくまって。

しんじゅ、まもってもらえない。


しんじゅ、もう、むり。

しんじゅ、もう、いきていけない。


しんじゅ、こわい。

しんじゅ、もう、ここにいられない。

こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい…。)



私「あ…あ…あ…あ…。」


私は体を小刻みに震えさせ。

私の脳内は、沸騰しているかのようでした。


目の前で崩れ落ちている母親は、私の異変に気づいていないようでした。


その時、私の脳内でいろんな声が聞こえてきました。










いつも最後まで読んで下さりありがとうございます。
↓応援よろしくお願いいたします↓
 

スポンサーサイト

説得失敗(少女時代68ー③)

嘘と真実(少女時代68ー①)

comment iconコメント ( 2 )

う~ん

そんなにつらい経験をお持ちだったとは・・・><

名前: 坊主おじさん [Edit] 2016-02-09 21:58

Re: う~ん

ま、そんなこともありましたとさ^^

ではでは☆

名前: しんじゅ☆♪ [Edit] 2016-02-13 17:02

コメントの投稿