私は白い湯気をまといながら、自分の肉体から抜け出て、少し上の位置から、タンスに体を預けて放心している自分の姿を見下ろしていました。
すると、私の脳内に不思議な光景と人々のガヤガヤとした話し声が聞こえてきました。
それは、円形の巨大なテーブルに白い服をきた大人たちが8人ほどいて、会議をしている模様でした。
円形といっても、円卓ではなくて、グルリと人を取り囲むようにテーブルが設置されており。
内装はメカニックな感じで、すべて金属で設えられた白一色の空間。
威厳をたたえた感じの男の人たちが集まって、モニター越しに私の様子を観察している様子でした。
『マズイ、肉体を抜けたぞ。このままだと心肺停止する。』
『くそ、前回のでクセになったか。』
『はやく呼吸をさせないと、脳内に深刻なダメージを与える。
蘇生したとしても、心身に障害が残ってしまうだろう。』
『だが、本人は戻りたがっていない。
無理に引き戻すこともできないだろう。』
『時間が惜しい。
誰か、あそこに行く者はいないか?』
『…』
『…』
『では、私が行こう。
一刻を争う。』
『了承した。』
一人の西洋人の銀髪の初老の男性が名乗りをあげました。
スッと、私の意識が戻りました。
体の震えが止まっています。
目の前の若い婦人が震えているのを見て、そっとその腕の上に手を置きます。
ハッとした表情をして、母親が顔を上げます。
涙にぬれた、その表情は苦悶に満ちて、メガネのフレームが多少歪んでいます。
おそらく、父親に真偽を確かめに行った際、暴力を振るわれていたんでしょう。
母「しんじゅちゃん…。」
私「大丈夫か?」
母「しんじゅちゃん…。」
母親は泣き続けています。
私を抱き寄せて、そのまま泣きむせびます。
母「しんじゅちゃん、おかあさん、どうしよう…。
しんじゅちゃん、ひどい目にあったの、本当のことだったのね…。」
私「自分を連れて、この家を出て欲しい。」
母「えぇっ!?
そ、そんな勝手はできないわ。」
母親は驚いて、私を手放しました。
私「可哀想だが、あの男には理屈は通じない。
話し合いなど期待せずに、今すぐ荷物をまとめて家を出たほうが賢明だ。」
母「そ、そんな、だって…。」
私「許可を得る必要はない。
余計に暴力を振るわれるだけだ。
しのごの言わずに、さっさと荷物をまとめて、この家を出ろ。
それが、身の安全を守ることになる。」
母「そんなこと言っても、子供たち四人もいるのよ?
一番下の子はまだ、赤ちゃんだし…。」
私「それなら、おしめなどの赤ん坊のものだけ持てばいい。
後は現金と、子供たちを連れて、体一つで逃げ出せ。
はやく、カバンに荷物を詰めろ。
男が帰ってくるぞ。」
母「そ、そんなこと、急に言われても…。
お父さんだって、ちょっと気が立って、暴力をふるっただけなのかもしれないし…。」
私「楽観視するな。
最初から、そういう男だ。
はやく自分や娘たちの安全を確保するんだ。」
母「でも、だって、どこに行けばいいの?」
私「実家でも、警察でも、ホテルでも、どこでもよかろう。
さっさと家を出るんだ。
その意思表示がまず大事なんだ。
グズグズしている時間はない。」
母「実家と言っても…。
お母さんが怒るわ。
世間体も悪い、近所から、どう見られるかって恥だと責められるわ。」
私「世間体や世間の目線で腹が膨れるか。
さっさと、こんな環境から抜け出せ。
自滅する気か?」
母「そんな…絶対お母さんは許さないわ。
すぐに、戻るように言われる。」
私「母親のことより、自分たちの未来を考えろ。
このままだと、どんづまりだぞ?」
母「そんな…。
お父さんは優しい人よ。
きっと、考えを変えてくれる。
話し合いをすれば、きっと理解してくれるわ。」
私「話し合いの結果が、いまの状態だろう。
目を覚ませ。
いいから、子供たちを連れてこの家を出るんだ。」
母「そんな…。
ここから逃げ出しでもしたら、ご近所になんて思われるか…。
残されたお父さんが恥をかくことになるわ…。」
私「妻子を殴る男をかばうことはない。
さっさと支度しろ。
荷物を持てないというのなら、体一つでいい。
子供たちを連れて、この家を出るんだ。」
母「そんな、でも、きっと…。
きっと、優しいお父さんに戻るわっ!
私、信じてるっ!」
私「お前、正気か?
こんな子供に手を出す男が話し合いに応じるとでも思っているのか?
この娘だけじゃない、お前のもう一人の娘も餌食になっている。
お前、分かってて言ってるだろう?
子供が可愛いと思うなら、はやく支度をするんだ。
今がチャンスだ。」
母「そんな…。
そんなこと、できない。
きっと、きっと、お父さんは変わってくれるわ…。」
私「あくまで、家を出ないと…。
子供は一人では生きていけないのだぞ?
お前は、子供より男を選ぶと言っているが、どうなんだ?」
母「だって…。
女一人で生きていくなんて、無理だもの…。」
私「それで、子供がなぶり殺しになってもいいと言うのか?
それが母親の言う言葉か?」
母「だって…。
だって、私だって、生きていくのに必死なのよ。
お父さんがいなかったら、また蔑まれる。
嫌よ、そんなの、いや。
一番下の子なんて、生まれてまだ一月も経ってないのよ?
その上、上に3人もいる。
とても新しい環境で育てるなんて、無理だわ。」
私「それなら、下二人だけでも連れ出せ。」
母「そんなこと、できない。
無茶言わないで…。」
私「それなら、この子だけでも、よそにあずけろ。
このままだと殺されるぞ。」
母「そんな外聞の悪いこと、とてもできない…。」
私「外聞…。そこまで…。」
母「私を責めないで。
私はなにも悪いことしてないわ。」
私「あぁ、お前はなにもしていない。
知ろうともしていない。
だから何も知らなかったのだからな。
だが、事実を知った後でも、なにもしない、ということは、男のしていることに加担していることになるぞ?
はっきり言えば、お前はとがびとだ。
自覚しろ、お前は母親なんだぞ!」
母「私を責めないで…。
私はなにも悪くない…。
どうしようもないのよ…。」
私「くっ…。
説得失敗か…。
今は興奮していて、冷静な状態ではないしな…。
お前、この代償は高くつくぞ。
この娘の人生をめちゃくちゃにする。
自分の娘に大きな負債を負わせる事になる。
気が変わることを願っている。
いつでもいい、子供を連れて、早く、この家を出ろ。」
母「何も聞きたくない。
何も知らない。
私は悪くないの…。
これは、なにかの悪い夢なの…。」
母親は両手を自分の耳に押し当てて、首を左右に振りました。
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