視界が悪かった。

目の前の光景が、やたら赤茶色に霞んで見える。
こころなしか、目元がゴロゴロする。

荒寥とした景色の前に、知らず両手を組んでいた。

彼「泣かないでペテロ。」

自分の両手を包み込むように、そっと優しく誰かの両手が添えられていた。

『泣かないで』?『ペテロ』?

気づくと、目の前に柔和な雰囲気を持つ青年が佇んでいた。

自分の頬が濡れている。

あぁ、自分は泣いていたのか。
視界が赤茶色なのは、血がにじんでいたから。
すると自分は血の涙を流していた事になる。


私「マスター、なぜあなたがいるんです。」

彼「ん、君が心配でね。
いつも、君はがんばりすぎるから。」


依然自分の視界は悪い。
目の前に立っている人物の人相、着衣は判然としないが、口をついて出た自分のセリフに相手が誰なのか、察しがついた。

血の涙を流す人物に、平常心で声をかけ、優しく両手を添える人物。
一人しかいない。

私「甘やかし過ぎじゃないですかね?
今の私はクリスチャンでもなんでもない。
なぜアセンデットマスターのあなたが現れるんです。」


彼「私と君の関係だよ?
今クリスチャンかどうかは、関係ない。
君は自己犠牲の精神が強いから。
まったく、私がいくら言っても聞かない。」


私は彼の手をふりほどいた。
初老の男と青年が手をつなぎあっている絵面はなんだか嫌なものだ。
ハッキリ言えば照れている。

しかし、彼に包まれていた、自分の手元が小さな手をしているから、姿形は今の女性の格好をしているのかもしれない。

最後に彼に会ったのは、豪華客船の中でだったか。
キャンドルの揺らめきを見つめながら、彼と向かい合わせに座って話していた。

小さな赤いバラが一輪テーブルに飾られていた。

あの時も(意識体の)胸から血を流していた。
彼に指摘されるまで自分は気づいていなかった。
今も血の涙を流している。
自分は相当参っているらしい。


私「…あなたが現れるという事は。
控えめに言って、とても疲れているようです、マスター。」


彼「私は愛に制限はないと伝えたつもりだよ?
君はいつもがんばりすぎるし、自己犠牲のクセがある。
なにより、原罪意識が強い。
それを伝えに来たんだ。」


私「…今は特に何も問題がないと思っていましたが…。
悩みはあります。
ただ、原罪意識と言われても…。
とにかく、人死にが出なくてよかったと思っていますよ。」


彼「うん。」


目の前にいる人物が微笑んでいるのが分かる。

視界が悪く、赤黒い人影にしか認識できないが、美青年だというのも分かる。

その相槌には、私の中の認識と、彼の言わんとしている事との間に齟齬があるのも受容しつつ、今の私の理解度も認容しているような、そんな受容を強く感じた。

いつも思うのだ。

かなり年下の彼を目の前にすると、自分がいかに理解度が低く、精神的に幼いかを思いしらされる。
まるで、ワガママを言う小さな子供を相手にしている母親のような雰囲気が彼にはある。

自分がかなり参っていると、自覚させる為に彼は現れた。
それも、私のプライドを傷つけないように気遣ってくれてもいる。

だからと言って、はい、そうですか、まいりました、とも言えない。

年長者としての面目と意地がある。
辛くとも頼って甘えることなどできない。

しかし、そんな内面は全て彼にはお見通しなのだ。


私「…マスター。
コーヒーが飲みたい。」


彼「うん、いいよ。」





場面が変わった。

先ほどまでは、土塊などかあった、殺伐とした光景のようだったが、今はどこかの屋内にいる。
テラス席のようで、すぐ隣は日差しが差し込む緑にあふれた庭園のようだった。

気づけば差し向かいに座っていて、テーブルの上には、白いコーヒーカップが二つ置かれている。

その一つを手に取り、ぶっきらぼうにそれを口にする。

酸味がない、のどの奥に木の香りがする今まで飲んだ事のない非常に美味しい珈琲だった。
ハワイのコナコーヒーに味が似ているかもしれないな、と、思いながらそれを味わっていた。

以前、フォーカス100のミカエル邸で一緒に珈琲を飲んだ事があったっけ。

光輝くその美貌は、とろけるような美青年だった。

カチャ。

空になったコーヒーカップをソーサーに置いた。



私「マスター、あなた地上にいた時、そこまで美青年じゃなかったでしょう。
卑怯じゃないですか、なんでそんな美貌なんです。
地上で苦労した分、非物質の世界で美形になるのなら、私も美形にしてくださいよ。」


彼「ふふ。」


私「だいたい、苦労したっていうんなら、あなたの死んだ後の私の方が苦労したっていうんですよ。
逆さはりつけで死ぬまで苦労したんですから、私の方が美形になってもいい位だ。」

彼「ふふ。」

私「だいたい、あなたが私を釣るから、あんな苦労をする羽目になったんです。

老人の人生狂わせた責任とってくださいよ。」


彼「うふふ。
弟子のなかでも、そんな事を言ってくるのはペテロぐらいだものね?
だから私は君が好きなんだよ。」


私「はぁ、もう死んじゃっているから、いーですけどね。

あ、そうだ。
なんか、鍵を預かっていたんでした。

あなたにお返ししますよ、私には荷が重すぎる。」


彼「君が持っていてよ。」


私「いや、私では力不足ですよ。
私が持っていても、錆びつかせるだけです。
もっとやる気のある、才気あふれる若者に任せた方がいいんじゃないですか?」


彼「君に持っていてもらいたいんだ。」


私「しかし、今の私には使いこなせませんよ?
もったいない。
志願する者達もたくさんいるでしょうに。」


彼「ん。
でも君の方が適役なんだよ。
そのまま持っていて欲しい。」


私「知りませんよ?
まったく、物騒なものを…。
異次元にいる私自身が奪いにくるぐらいの代物です。
一体、扉の向こうには何がしまってある事やら…。」


彼「うふふ。」









そんな体験をした翌日。
私は自分の『原罪意識』をレトリーバルする事にしたのでした。






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原罪意識レトリーバル

頭の調子がよいのです。

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