急須にお茶っ葉を入れて、ガスガスと妙な音をさせながジャーからお湯を注ぎます。

三つのマグカップに黄色のお茶を入れて、それぞれの前に置きます。

みな、きゅうりのぬか漬けをお供に、お茶をずずっとすすっています。



弟「兄ちゃんは、姉ちゃんのことを結構アホ呼ばわりするけどさ。
俺には姉ちゃん、頭いいと思うんだよね。
今日も、二人の会話に全然ついていけなかったもん。」


兄「いや、中学生には今の話は難しかっただろうから、それは普通だ。
しかし、確かに…高校卒業して一年かそこらの女の子がシュレーディンガーの猫の話についていけるのは驚異的だな…。
どうも、自分を基準にものごとを考えてしまっていたが、俺の会社の新入社員で答えられる奴がどれだけいるかって思うと、普通はなかなか無いか…。」


私「それはたまたまそういうテーマの小説を読んでいたから。」


兄「いつだ?」


私「二年前。田中芳樹って人の小説で出てきた。」


兄「ふぅ~む、相変わらず驚異的な記憶力だな…。」


弟「え、二年前読んだ本の内容で、今の会話してたの?」


私「そう。
死亡確率50%というより、『未必の故意』だよなって私は思う。」


弟「え?密室の恋?」

弟はニヤニヤしながら、両手で自分の二の腕をつかむ仕草をしました。


私「いや、そんな火サス的なラブロマンスの話じゃなくて。
絶対そうなるとは限らないけれど、かなりの確率でそうなるだろうなって分かっていてやっているって話。」


兄「なんか、ラブロマンスというより、監禁してのストーカー的な印象があるな。」


私「さっきのMの例えだとちょうどいいかな。
気になる男性が不倫しているという噂を会社に流しました。

その意図は、それを聞いた人、全員が信じるとは限らないけれど、その噂を聞いて彼に悪い印象を持つようになりました。
結果、女の人がその男性に近づかなくなるようになりましたとさ。

ほら、当初の狙い通りの結果が出る。

つまり、絶対じゃないけど、ほぼ絶対結果がそうなると分かっていてやらかすことを『未必の故意』っていうんだ。」


兄「やっぱり犯罪だな。」


弟「あ、故意ってわざとって意味の故意ね。
それって確信犯的な?」


私「ん、厳密に言うと、確信犯の意味がちょっとちがうんだけど…。
現代の使い方でいうとそれは正解だから、そうだね、『未必の故意』を分かっててやってる確信犯のことだと思うと分かりやすいかな。

あと、似たようなもので、『瑕疵ある意思表示』と、『心裡留保』、なんてのもある。」


弟「菓子ある意思表示?食物につられるとか?」


私「瑕疵っていうのは、傷って意味なんだ。
ホラ、お酒を飲むと、人が変わる。
それが玉に瑕っていう言葉あるだろ?
その瑕って文字を使うんだけどさ。

騙されたり、脅されたりして自分できちんと判断できない状態で意思表示することを言うんだ。」


弟「じゃ、全然意味違うじゃん。」


私「ん、でも『心裡留保』ってのもあってね?

これは、本心では違うと思うけどなぁって思いつつ、口から出た言葉は別のことを言っちゃうってやつ。
まぁ、冗談とか、ふざけた言葉とか詐欺もこれにあたるかな。

この三つの言葉は商業高校に行ったら、民法の授業で必ず出るから覚えておいたほうがいいよ。」


兄「お前民法を習っていたのか?」


私「うん、総則と物権、債権までね。」


兄「ふぅ~ん、幅広いな商業高校も。」


私「まね。でも、今はひたすら電卓を叩いているよ。
なんのためにそろばん習ったんだか、とか思うけどね。」


弟「でも、姉ちゃん、いいとこに就職できてよかったね。
周りの人も親切そうでよかったじゃん。」


兄「そうだな、その主任さんなんて、親身になってくれてるじゃないか。
人間関係がいいのが一番だぞ?」


私「ん、でも、客商売なんだから、笑顔をもっと出して欲しいって言われてて困ってるんだ。」


兄「何を当たり前のことを。」


私「だって、目の前に浮浪者風の幽霊がいてさ。
毎日客の足を掴んで転ばせているんだよ。」


弟「え?姉ちゃんの会社、幽霊いんの!?」


私「なに言ってんの?幽霊のいない場所なんてないよ?

考えてもみ?
今、生きている人間より、今まで死んだ人間の数の方が圧倒的に多いんだよ?

この世は幽霊だらけだよ?」


弟「怖っ!?」


私「あはは!ごめん、脅かしすぎた。
実際はそんなにいないよ?
それに、毎日見えるわけじゃないんだ、時々ね!」


兄「それで、お前の笑顔となにが関係あるんだ?」


私「そこにいるのは、地縛霊らしいんだけど。
ただただ、やってきたお客さん、特に子供ね!
子供の足を掴んで転ばせる、それだけが楽しみで生きている、あ、死んでる奴なんだよ。

でさ、私も足元をすくわれて、転ばされたことがあるんだけど。」


兄「子供と一緒か。」


弟「迷惑な奴だな。」


私「うん、だからさ、あっちも驚いたみたいで。
大人で触れたのは珍しいらしくて。

そこの周りの人達も、『大人が転んだっ!』ってざわざわして内心、驚いていたし。」


兄「待て、そこの職場の人も幽霊の存在に気づいているのか?」


私「あぁ、目には見えないみたいだけど、ほぼ毎日子供だけが転ぶから不自然だとは気づいていると思うけれど、どうにもできないから無視しているだけみたい。」


弟「そうかぁ。」


兄「話を元に戻そう。
それで?」


私「でだ、それが私の目の前の、正確には柱挟んで斜め向かいの通路での出来事なんだよね。
私、接客の仕事もあるからさ、通路側を向いて座っているんだけど。
そいつが、チラチラこっちを見に来るんだよね。
視えてる?俺に気づいている?って感じでアピってくるからさ。

無視してるんだけど、それには無表情が一番じゃん?
だから、お客が来たら笑顔になってくれって言われると、困っちゃってさ。」


兄「うっかり幽霊に笑顔を向けたらつきまとわれるの必至だからか。」


私「そう。」


兄「む、それは難儀だな。
無難に過ごすには無表情が一番だが、客商売だとそうもいかない。
しかし、事情を説明もできないし、それだとただ単にお前が偏屈な人間ってことになる。」


私「そう、実は職場だけでなくて、どこでもそうなんだけど。
視えてる奴ら(幽霊)には、視えてないフリしなきゃならないし。
視えてない奴ら(人間)には、視えてないフリしなきゃならないしで、頭の中いっぱいなんだよ!」


弟「え?同じ事言ってない?」


兄「いや、言いたいことは分かる。
つまり、自分が幽霊が視える人間だと悟られないように常に気を配らなきゃならないって話だろう。」


私「そう、今、自分の動きは不自然じゃないか、セリフのつじつまはあっているかって気を遣うんだ。
それって、精神的に余計な負荷がかかって、毎日しんどい。
仕事を覚えなきゃならないのに、なんで、こんなことに気を使わなきゃならないのって思う。
Mみたいに、恋愛とかに浮かれている余裕なんてないよ。」


兄「ふむ、確かに余計な負担になっているだろうことは分かるし。
職場では理解は得られないだろう。
不憫だな。」


弟「えぇ~、それっていつも姉ちゃん、演技しているってこと?」


私「アハハン♪

♪鏡の中のアクトレス~ハッキリ言えばいいのに~♪

ためらいが耳元でささやく~♪」


兄「『きまぐれオレンジロード』か。
突然歌いだすな。
なんだかんだで、十代だな~、元気が有り余ってる。」


弟「やっぱり姉ちゃん、突然歌いだすじゃん。」


私「まぁまぁまぁまぁ。
そういう訳で、ハッキリ言えばだ。
霊感なんて、ない方が断然お得だっ!」


弟「確かに。」


兄「そうだな、面倒なだけだもんな。」


私「自分ではどうにもできないし。」


兄「確かに、頼れる人間がいればな~て思うけれど、信頼できる霊能者なんて、どうやって見分けりゃいいんだって話だよな?
金もかかるだろうし。」


弟「じゃ、このまま?」


私「そ、このまま。」


兄「あとは、自然と能力が弱くなっていくのを待つしかないか。
多感な十代だから感じとれる部分もあるだろうしな。」


私「そ、そんな感じなのよね。」


弟「ふぅん、よしあしだな。」


私「私から言わせれば、神様は不公平よ。
なんで、私ばっかり。」


兄「まぁまぁまぁ、それでもやっぱり公平なんだろうなって思うよ、俺は。
お前の同期はほんとに極端だけど、お前みたいにのほほんとした奴がいることで、中和されている。

ほんとに、いろんなめぐり合わせとかあるんだろうなって思うよ。」









おしまい。








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少女時代71ー3シュレーディンガーの猫

comment iconコメント ( 1 )

Re: ガイドイラスト&レポートありがとうございました

連絡ありがとうございます^^
そうですか~、またなにか気になることがあったら、一度ご質問くださいませ✩
私も金髪碧眼の青年が出てきたのは意外でしたよ?
非常に頭のよい男性のようですね。マジで。
ちょっと今日は出かけておりますので、また落ち着いたらお返事させていただきます。
参加表明もありがとうございました♪

名前: しんじゅ☆♪ [Edit] 2017-03-11 09:33

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