胸がドキドキした。緊張で頭がぼーっとする。

でも、行くんだ。


コンコン、と職員室のドアをノックする。


私「失礼します。」


誰にも顔を合わせずに、うつむきがちで薄暗い廊下から、職員室へと入った。

天気は花曇りより少し明るい感じで、放課後の職員室は白っぽく光って見えた。


ちょうど、なにかのタイミングなのか、人がいないように見えた。


視線を巡らし、担任の先生を見つけて、ぎこちなく歩き、すぐそばまで行った。


つばを飲み込む。


私「あの、先生…。お話があります。」


先生「なんだ、しんじゅ、なんの用だ?」


ゴクリ。


私「あ、あの…。先生、あの、私…。

私、算数のテスト、カンニングしてません。

せ、先生の誤解です!信じてください!」


緊張の糸が切れた。


言えた。言えた。この三日間ずっと考えていたことがやっと言えた…。


先生「ほぉ。それでは、私が誤解をしていると言いたいわけだな。

お前の言い分が正当だという根拠を示せ。」


私「こ、根拠?わ、私はカ、カンニングしていないんです。

ほ、本当なんです、信じてください。」


先生「ならば、証拠を示せと言っている。

根拠なく人の意見を誤解だと決めつけてくるお前の方が言いがかりに等しいぞ?」


私「しょ、証拠…。

証拠は…そ、それは…。」


先生「無いなら以上だ。早く立ち去れ。」


私「あ、あります!

わ、私がカンニングしていない証拠!

せ、先生は、わ、私が他の子の答えを、盗み見たと思って、カンニングしたと考えたんです。

わ、私の答えは、ぜ、全問正解しています。

も、もし、私が誰かの答えを、ま、丸写ししたのなら、その子と同じ答えになります。

その子が正解したところだけじゃなくて、ま、間違えたところも、同じところを、私も間違えます。

私の周りの子で、全問正解した子はいません。

わ、私が他の子の答えを写していない、という証拠になります。」


先生「!

お前の思い違いだろう?お前の他にも満点の生徒はいた。」


私「わ、私以外には二人しか、い、いませんでした。

Iちゃんと、Y君です。

ど、どちらもすごく席が遠いです。

カンニングなんて、できません。」


先生「お前がたまたま見た答えが正解だった。

答えをのぞき見たのは、一人じゃない。

そうだとすれば、お前のカンニング疑惑は晴らせないな。」


私「わ、私は自分で答えをだ、出しています。

私のまえ、うしろの子は、て、点数はそんなに良くなかったです。

答えを写した方が、て、点数がいいって事はないと思います。」


先生「お前、カンニングしておいて、その上同級生を貶めるのか?

いいご身分だな。」


私「そ、そんなつもりは…。」


先生「まぁ、いい。

事実お前の周りの奴はお前ほど点数はよくなかった。

それは実力で勝負したからだ。

その点、お前は他人の答えを丸写しだ。

答えだけあっていて、満点をよこせだなどと、盗人猛々しいわ!」


私「ち、違います。

じ、自分で計算したんです。

こ、答えを盗んでいたのなら、私のテストの答えは、ま、間違いがあるはずです。

ま、間違いがない、というのが、う、嘘をついていない証拠です。」


先生「お前がのぞき見たのは一人二人じゃなかった。

前後左右、斜めまで入れれば8人の答えを拾える計算になる。

それなら、正解ばかりを盗み見た結果がたまたま全問正解していた、と言えるだろうが。

お前の主張は絶対じゃない。」


私「…せ、先生、なぜ分かってくれないのですか?

せ、先生の言うことには、む、無理があります…。


テストで、満点がとれない子は、授業を、全部理解して、いないからです。

みんな間違えるのは、む、難しい問題になります。

だから、間違える問題はみんな同じになります。

大勢の人の答えを写しても、全部正解はとれません。」


先生「分からんだろう?

満点に近い生徒たちから、拾った数字がたまたま正解ばかり集まった。

それなら、理屈が成り立つ。」


私「せ、先生…。

私の周りの子たちで、満点に近い子はいませんでした。

みんな90点より、下の子ばかりでした…。

先生の理屈通りなら、私の周りの子達も満点でないとおかしいです。」


先生「いいや、たまたまだ。

問題を理解していなくても、難しい問題で、たまたま正解が出た生徒がいた。

それを、お前が盗み見た。

その組み合わせが偶然、全問正解を招いた。それだ。

なくはない。」


私、「そ、それは…。

それは、なくはないですけど…。」


先生「そうだ、それで決まりだ。

お前はカンニングをしていた。」


私「先生…。

自分で計算できない問題で…、他のできない子達の中で、あたりだけを集めて、全問正解する。

それは、とても…とても確率が低いと思います…。」


先生「確率が低かろうと実現可能な話だ。

それか、こっそり全問正解した生徒の答えを盗み見に移動していたかだ。」


私「先生…。

テストを受けていた時、先生は同じ教室にいました。

もし、前後左右ななめの子の答えをのぞいていたとしたら、私、首を回して、変です。

先生が気づかないはずがありません…。」


先生「!」


私「先生の誤解なんです。

わ、私がカンニングをした、というのを訂正してください。」


先生「いいや、たまたまだ。

お前はたまたま点数のいいところを私の目を盗んで、少しの人数で拾い集めた。

難しい問題も、その子がたまたま解けていた。

だからこの話は成立する。」


私「たまたま…。

こ、答えが一桁の数字ばっかりだったら、まぐれもあるかもしれません。

でも、あのテストは分数です。


分母も分子も何桁もあります。

たまたまで正解が出る確率は、す、すごく少ないと思います…。」


先生「それがどうした!確率が低かろうと、絶対ではない!!」


目に涙が出てきた。


私「先生は、問題のできない子でもたまたま正解する事があるって…。

わ、私は不思議なんです。

そ、それなら、なぜ、私がたまたま全問正解したって思わないのか…。

なんで、カンニングしたってことになるのか…。」


先生「それはお前に不信感があるからだよ。」



私「先生…。

私は、不思議なんです…。




いつも0点とか10点とか20点の子が満点を取ったとか…。

そういうのなら…分かるんです…。




けど、わ、私、いつも…。

いつも、平均点以上とっています…。

それが、なぜ、いきなり100点とったからカンニングだと言われるのか…。




わ、私はやっていない…。うっく。」


先生「お前の答案に不信があるからだ。

当然の疑惑だ。

疑いが晴らせない以上、お前のカンニングは確定だ!」


私「…そうだ!

それなら、私の席の周りの子のテストを並べて、見れば、私がなにもしていないという証拠になります!」


先生「それはならん!

子供たちのプライバシーを荒らす気か?

教師として許せん!私に迷惑がかかるぞ!」


私「わ、分かりました、それなら、先生に迷惑がかからないように、私が一生懸命頼んでみます!」


先生「ならん!個人情報保護を覆す気か?

他の児童のテストの点数を知るなどと、どこにそんな権利がある!

お前は法律違反を犯そうとしているぞ!

慎め!!」


私「そ、それじゃ点数は聞かずに、間違えた問題がどこかだけ聞いてみます!

まだ、みんなテスト捨てずに持ってると思います!

なんとか、頼んでみます!」


先生「お前がまかり間違って、自力で全問正解したとなると、平均点が上がるだろうがっ!

自分の相対評価が下がる他の児童の気持ちを考えろっ!」


私「それなら、先生は全部の生徒のテストの結果を、知っています。

教えてください。」


先生「個人情報保護の観点からそれはできん!

教育委員会ひいては国が決めたことだ。

つまり、お前の無実は証明されない。

あきらめろ、お前はカンニングしたという事に決定だ。」


私「……ちがう…。

私がカンニングをやってないと、確認できなかった…なら、お、同じようにカンニングしたという証拠もないと思います。」


先生「!

あぁ言えばこう言う…。

忌々しい。

お前、どうしても私を悪者にしたいようだな!」


私「わ、私は、先生を悪く言いたいんじゃないです。

ただ、わ、私は答えを盗んでいません。

やっていないことをやったと、言われるのが、嫌なんです。

ほかの子の前で、訂正してください。

お願いします!」


先生「疑わしきは罰するだ!

お前が疑わしいことをした以上、有罪とする!」


私「先生、わ、私は、間違ってない。

信じてください、やっていないんです。」


先生「お前が答案に答えしか書いていないから悪いんだ!

どうして式を書かずに答えを出せると言うんだ!」


私「暗算しました。」


先生「暗算でどうこう出来るレベルの問題じゃない!」


私「代数を応用しました。」


先生「代数?私は教えていないぞ!

何を言っているんだ、中学校で習うことだぞ?

どこで、どうやって学ぶ!?」


私「お姉ちゃんの宿題を手伝ううちに自然と覚えたんです。」


先生「姉?学年は?」


私「中2です。」


先生「お前、いくつだ。」


私「来月10才になります。」


先生「なんのおふざけだ!

お前程度の知能で、数学ができるとでも言うつもりか?

小学生には難しい代数ができるわけないだろうが。」


私「代数が難しい???

言っている意味が分かりません。

四則演算ができれば、誰でも解けると思います。」


先生「!

まぁ、いい。

代数ができたところで、なぜあの桁数の暗算ができる!

そこも不審だ!」


私「そろばんを習っていました。」


先生「そろばん?お前そろばんを習っているなんて、家庭訪問の時には聞いていないぞ?」


私「小3でやめました。」


先生「…何段だ。」


私「…4級です。」


先生「はっ!嘘も休み休み言うものだな?

4級?4級で暗算が得意だと?」


私「…わざと3級試験に落ちたんです…。

そろばん塾の先生は頑張れば1級も取れると言ってくれていました…。」


先生「お前、言うに事欠いて、実力を隠してました、とひよっているのか?

呆れた陶酔野郎だ。

段とってから言え、暗算が得意だと。」


私「…それでも、自分で計算したんです…。」


先生「お前な、自分を賢く見せようとする、その様が醜いぞ!

お前の知能指数はたかだか120にも満たない。

その程度の知能で、なにを勘違いしているんだか…。」


私「…先生の言っている意味が分かりません…。

知能指数は100が普通だと聞きました。


せ、先生は、私のことを頭が悪いみたいに言っています。

120なくても、平均よりはいいのなら…。

算数で100点とっても、おかしくないと思います…。」


先生「また詭弁か!

ほんとに、お前は気持ち悪い奴だな!

いくら言っても無駄だ。


お前はたかだか、この世に生れ出て10年。

それに引き換え、教師生活をしている私の経験値の方がよっぽど長い。

その私の勘が言っている、お前は嘘つきだとな!


だから、お前はカンニング決定、間違いない。」



私は涙をポロポロ流してしまいました。



先生「なんだ、それ。

泣き落しのつもりか?

そうか、お前自分の実力を隠す、薄幸の美少女気取りなんだな。

悪かったなぁ、しんじゅ、お前の目を覚ましてやるよ。

お前は大嘘つきのペテン師の不細工だ。


だから、カンニングなんて、卑劣な真似をする。」


私「な、泣き落とし…。そ、そんな…うっく、うっく。ひっ。」


先生「ほらほら、ますますブサイクになるぞ?

頭の中だけでなく、外見もそのままだ。

まぁ、顔の悪い奴は大概頭も悪いけどな。


その上、同情を引くためだけに、泣き真似までしでかす。

先生は悲しいぞ?

どうせカンニングをするような人間だ、何を言っても無駄だと思うがな。」


喉の奥が引き連れて、ヒーっという悲鳴が小さく漏れる。


私「わ、私は、それでも、や、やっていない…。」


先生「ははは、それでも地球は回っているか?

お前は地動説の天文学者の偉人気取りか!

名前を言ってみろ!」


私「ヒック、ヒック、が、ガリレオ・ガリレイ…。」


先生「お前のそういうところがいちいち勘に触るんだよ。

なぜわざわざフルネームで答える。

アタシはそんな風に教えていないんだよ!

減点で当然だ。」


私「ヒック、ヒック、い、家に本があるから…。」


先生「ほぉほぉ、学者様気取りか、不憫なやつめ。

親が貧乏人だと頭の中までスカスカになるらしいな。

だから、カンニングなどという未来の犯罪者予備軍になるような真似をする。」


私「ヒック、ヒック…。

お、親は関係ないです…。


せ、先生が言う…ほど…ぶさいくじゃ…ない…です…。」


先生「お前、なに?もしかして、自分の事可愛いとか思ってた?

残念だなぁ、どっからどうみても、ポンコツだよ!!

お前の顔がガラクタの寄せ集めだ!」


私「そ、そんな…ヒック、ヒック…。


せ、先生…。

ふ、不思議です。


私、先生の言っている事が、よく分かりません…。」


先生「あぁ、その一点においては、気が合うなぁ、しんじゅ。

私もだよ。」


私「せ、先生は…ヒック。

先生は、立派な大人です…。ヒック。」


先生「ほぉ、それで?」


私「でも…。ヒック。先生にも…子供の時が…あったと思います。」


先生「それがどうした。」


私「ど、どうして…子供の気持ちを…ヒック。

真っ直ぐな気持ちを…つぶそうと…ヒック。するのか…。

よく、分かりません…ヒック。」


先生「そぉかぁ。

子供の真っ直ぐなキモチかぁ眩しいなぁ。

爽やかな言葉をもらったな。

よし、なら、お礼にこうしよう!

お前、嘘でもいいから、『今から先生のことを尊敬しています』と言ってみろ。

そうしたら、算数のテスト100点にしてやらなくもないぞ?」


私「…ヒック、ヒック…。

…う、嘘はつけません…。」


先生「お前、ホントに頭おかしい奴だな。

そうか、もう一度言う。

『尊敬する大人は誰だ?』

質問に答えない限り、退室は認めん。」


私「…ヒック、ヒック…。

き、気持ち悪い…。」


涙を流しながら、私が胸に手を当てて、前のめりに倒れそうになると、やれやれという風情で担任はため息をついた。


先生「お前は、言葉が足りないなぁ。

まるで、私が気持ち悪いと言っているように聞こえるじゃないか。

そうじゃないだろ?

気分が悪いと言え。」


私「…き、気分が悪いです。

もう、行かせてください。」


先生「ダメだ、さっきの質問に答えろ。

退室は認めん。」


私「ハァハァ…。わ、私の、尊敬する大人は…。

ハァハァ…、先生…ではありません。」



担任の教師がバアン!と大きな音を立てて、事務机を叩いた。




先生「嘘でもいいから言えって言っただろ!

お前何様のつもりなんだ!!」


私「う、嘘は言えません…。」


先生「この低脳のクズがっ!」


私「ヒィ~…。」


先生「担任の私がクラスのリーダーだ!

私が法なんだよっ!

お前たちさまよえる魂の子羊を導く、聖職者様なんだよっ!

お前ごときが、私に口答えすること自体、神に逆らうのと同じ、反逆及び冒涜なんだよっ!」


私「わ、私は…。

う、嘘をついていません…。

わ、私は間違ったことをしていません。」


先生「全問正解だろうとな、式を書かなきゃ減点で当然だ!

学校教育に対する冒涜行為なんだよっ!

お前、私に媚を売る脳もない、低脳のまるで猿だなっ!

いや、ヒィーヒィー泣いて、まるで豚だ。


そうだ!私の足元にひざまずけ。

そして、四つん這いになって、ブゥブゥ鳴いてみろ。

そうしたら、テストを満点にしてやるよ、子豚ちゃん。」


私「ヒック、ヒック。…私にはよく分かりません…。

先生が信じてくれなくて、悲しいです…。ヒック。」


先生「なんだ、今度は憐れみか?

さすが詩人だなぁ、しんじゅ先生は…。

お前のすることは、後悔と懺悔だ。

私に許しを請え。

さぁ、ひざまづけ、そして靴を舐めろ。

100点が欲しいんだろ?」


私「…失礼します。」


私は職員室のドアを開けて、再び先生の方を見るのが嫌で後ろ手でそのままドアを閉じようとした。

背後から担任の罵声が被さってきた。


先生「年長者に尻を向けたまま出る気かっ!

どこまでもシツケのなっていないガキだな!

負け犬のメス豚めっ!」


ガラガラと職員室のドアが閉まるのとほぼ同時に。



『小宮先生、ちょっと…』



と、他の教師が担任に声をかけていたようだったが、私は構わず薄暗い廊下を駆け出していた。










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