用務員のおじさんは私の首にかかっていたタオルで、私の顔を拭ってくれました。


用「ちょっと風でてきたな?
嬢ちゃん、歩けるようになったか?」


私はちょっと立ち上がりましたが、うまく足が動かせませんでした。

用務員のおじさんは、私の前にしゃがんで、後ろを振り返りながら声をかけてきました。


用「嬢ちゃん、おんぶしたるわ、そんで一緒に帰ろ?」


私「…うん。ごめんなオッチャン。」


用「大丈夫や!嬢ちゃんはミニマムやから、軽い軽い!」


私「ミニマムってことは便利やな!」


用「そうや!ほら、乗りぃ。」


私「うん…。」


と、用務員のおじさんの背中に体を預けて、首に手をかけて、両足を抱えてもらっておんぶしてもらいました。

おじさんは、さらに私を抱えた手で、工具箱の取ってを掴んでいます。


もう、すっかり日が暮れた校内をゆっくりと歩いていきます。



用「なぁ!嬢ちゃん、嬢ちゃんは確定申告もできるそうやな!」


私「え?なんでそれ知ってるの?」


用「あはは、嬢ちゃんのお母ちゃんから聞いたわ!

ウチの子、冗談で確定申告をやらせたら、簿記も教えていないのに、ほんとにできそうだったって、驚いとったわ。
去年の資料みて、貸方、借り方の勘定を上手に仕訳けしとったそうやないか!

売掛帳の管理ももう一人でまかせとるとか!
嬢ちゃん、頭いいんやな!
お母ちゃんの自慢の子やな!」


私「ふぅ…。」


用「どないしたん?」


私「また、お母さんに怒られるわ…。」


用「そうやな~、こんだけ遅くなったら心配しとるやろうなぁ。
でも、おっちゃんも一緒やで、説明したるで、大丈夫やわ。」


私「うん…でも、多分、やっぱり怒られると思うわ…。
アタシ、お母さんに嫌われたみたいやわ…。」


用「………なぁ、嬢ちゃん。
嬢ちゃんのお母ちゃんは何か考えがあっての事やと思うわ。
そんな落ち込まんでもえぇで?」


私「………。」


用「『敵をあざむくには、まずは味方から』」


私「え?」


用「嬢ちゃんのお母ちゃんが嬢ちゃんに厳しいんは、何か理由があると思うわ。

せやから、嬢ちゃんのお母ちゃんはホンマは嬢ちゃんのことかわいいと思っとる。
もっと、自信もってえぇで?」


私「うん…でも、こないだも怒られた…。」


用「はははっ!せやったなぁ。
嬢ちゃん、脱水症状起こしてぐったりしとったのに、カンカンやったなぁ。

『好奇心に負けて後先考えずに動くから身を滅ぼす』っつうて。」


私「うん…。」


用「あれは、ワシも驚いたけどな?
きっと、嬢ちゃんの身を案じての事やと思うわ。

あのあと、嬢ちゃんにお母ちゃん、優しかったやろ?」


私「………あんまり口きいてくれへんのや…。
アタシのなにが悪かったんやろぉか。」


用「………なぁ、嬢ちゃん、これは口外しんといてって嬢ちゃんのお母ちゃんに頼まれたことなんやけどな?」


私「こうがい?」


用「口に出すのは無し、つまり内緒、いう意味や。」


私「うん。」


用「嬢ちゃん、さっき、自分を探し当てたんは何か事情や理由があるはずだって言ってたやろ?」


私「うん。」


用「その事情っつうのが、あったんや。」


私「何?」


体育館を通り抜けて、グラウンドに差し掛かりました。


用「実は、嬢ちゃんのお母ちゃんから、ラブレターをもらっとったんや。」


私「えぇっ!?」


用「水色の封筒な!
そんで中身は白い便箋で嬢ちゃんのクラスと出席番号と嬢ちゃん家の電話番号がのっとった。」


私「え?なんで?」


用「嬢ちゃんを送り届けたその日の夜やわ。

家に嬢ちゃんのお母さんが大きな菓子折り持ってきたんやわ。
どうぞ、家に上がってくださいって言うても、奥さん、ガンとして受け付けんで玄関の外の庭、土の上で、いきなり土下座し始めたんや。」


私「土下座!?」


用「ワシ、慌てて、お礼ならいいです!
そんなことやめてくださいって言うたんやけど、嬢ちゃんのお母さん、額を地面にこすりつけてワシに頼んできたんや。」


私「何を!?」


用「嬢ちゃんが無事、学校を出て行くかどうか、見回りして欲しいっちゅうことをお願いに来ていたわけや。」


私「あ…だから、オッチャン、私のクラスを知ってたんか…。」


用「そうや?ネタバラシやな(笑)」


私「なんでお母さん、そんなこと…。」


用「なんでも、

『蛇みたいな人に目をつけられてしまった。
もう逃げられない…。

しかも学校には親の目が届かない。
だからあの子が毎日無事下校できるかを見守ってほしい。』

涙をこらえながら、必死の形相で頼んできとったわ。

お母ちゃん、嬢ちゃんのこと、心配しとったんやで?」


私「…そんな事、一言も聞いてない…。」


用「嬢ちゃんのお母ちゃんはこうも言うとった。

『私があの子を気にかけていると知られると、余計にいじめがひどくなる。

だから、この話は口外しないでほしい』

とな。

クラスの中に、よっぽど、嬢ちゃんの事が羨ましいと思っとるいじめっ子がいるようやな。
いじめを警戒しての事やと思う。

せやから、家に帰ったら、お母ちゃんに甘えたってもえぇんやで?」


私「でも…お母さん、私と目を合わせてくれないの…。

話しかけようとすると、いつも頭痛いから近寄らないでって言われる…。

他の兄弟とは笑顔で話をしているのに…。
私は出来損ないだから、嫌われているんだと思うの…。」


用「ん~…。
おっちゃん、しばらく、嬢ちゃんのお母ちゃんと話しこんどったんやわ。

まぁ、落ち着いて、お茶でもどうぞってしばらくお話させてもらっとった。
そん時、こう言っとったわ。

『あの子は上の二人に比べるとなにかと見劣りする子ですが、母親の私には分かります。

あの子はとても頭のいい、天才です。

これは親のひいき目でもなんでもない、事実です。

この田舎であの才能をひけらかせては、すぐに叩かれて潰されてしまいます。

ですから、慢心しないように、謙虚になるようにと厳しくしつけたつもりです。』」


私「え…お母さんが、私のことを頭がいいって…。」


用「そうやぁ?
それにこうも言うとった。

『あの子は不思議なところがありますが、とても素直な子供です。

周りの子供たちに比べて実年齢より幼いくらいですが、とても純粋な子供なんです。』」


私「え…。」


用「『純粋な分、しっかり者の上の子にくらべて、とても危なっかしい子です。

本当は同年代の子供達と遊ばせた方がいいと思いつつも、可愛くてつい手元に置いてしまっていました。

店番や手伝いをするあの子がいじらしくて、愛しくてたまらないのです。』」


私「お母さんが、そんな事…。」


用「『幼く見えて、とても聡明な子です。

炎のような正義感と湖のような優しさを持った子で、大人の私でさえあの子の器の大きさに時に圧倒されてしまいます。』」


私「お母さんが圧倒される…そんな…。」


用「『ですから、あの子が誰にでも愛されるように、目立たぬように、平凡に、普通の子供としての成長を願っていましたが、もう私の力が及びません。』」


私「え…それ、どういう意味…。」


用「さぁ?

『どうか、お願いです。

あの子に何かあったら、すぐに電話してください。

そして、何事もなければそれでいいのですが、万が一も考えられます。

どうか、お手数をおかけしますが、娘の様子を見守っていただきたいのです。』

そう、泣きながら嬢ちゃんのお母ちゃんは言っとった。

それは娘の身を案じている母親の姿、そのままやったで?」


私「……じゃ、なんで、私に冷たくするの…。」


用「多分、教室での嬢ちゃんの振る舞いに気をつけさせるためやないかなぁ?」


私「………。」


用「嬢ちゃんの事、素直ないい子やっておっちゃん言うとったやろ?」


私「…え、あ!うん…。」


用「あれな?嬢ちゃんは、いつもおっちゃんの事見かけると、『おはようございます』『こんにちは』『さようなら』『ごくろうさまです』って挨拶してってくれるのや。

それで、ワシは嬢ちゃんのことをいい子やと思っとったんや。」


私「?それが?挨拶するのは普通じゃないの?」


用「クスクス、そうやな、嬢ちゃんには普通やな!
せやけど、学校で用務員のおじさんに挨拶する子はほとんどいないんやで?」


私「えっ!?そんなバカなっ!?
みんな『おはようございます』って挨拶してるよっ!?」


用「クスクス、そうやな、周りの子が挨拶してたりすると、つられてみんな挨拶しよる。
でも、それは先生が近くにいる時やないか?」


私「え、あ、うん。そう、かも…。」


用「周りに先生や、大人がいないと挨拶しないのが多いんや。
それは子供だけやない、大人、先生や保護者もそういうこといえるんや。」


私「え?なんで…?」


用「クスクス、学校の用務員というのは、単に雑用係やと思っとるからや。
挨拶しても、なんの得にもならんと考える人は、挨拶せぇへんのやろな。」


私「は?一緒に働いているのに?
学校の為に働いている人を無視するの?」


用「嬢ちゃんは、なんで、おっちゃんに挨拶しよるんや?」


私「お母さんに、『働く大人は立派なんだから、誰でも挨拶しなさい』って教えられているから…。」


用「そう、嬢ちゃんのお母さんは、そういう考え方をするお人や。
子供は親の鏡や。
子供をみとると、親がどういうしつけをしとるか、分かる。

それで、この子の母親は立派な考えをする人やと尊敬しとったんや。」


私「そうだったの…。」


用「せやから、そんな親を持つ、嬢ちゃんは素直でいい子やと分かっとった。

いじめられるんも、嬢ちゃんのせいやないと言うたんは、そういう訳なんや。

どうや?謎は解けたかい名探偵さん。」







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