私「なぁ、オッチャン。

『敵を騙すには、まず味方から』っていうのは、オッチャンの意見か?」


用「ん?あぁ、あれはオッチャンのセリフや。」


私「オッチャン、お話してくれてありがとな?

アタシ、お母さんに言わないように、内緒にしとくわ。

でも、主観と事実を一緒に話されると、アタシ混同してしまう。

まだ、ちょっと混乱しとるわ。」


用「そうか、嬢ちゃん、今日はいろいろあったもんな?
おっちゃんの説明が下手でごめんな?」


私「うぅん、お兄ちゃんに、主観と事実は別個に考えるようにと言われとるんや。

それをしないことには真実を見誤るって。

今のお前には、それが命取りになりかねないから、注意しろって言われてたんや。
しんじゅの方こそ、キツイ事言って、ごめんな?」


用「あはは、頼もしいお兄ちゃんやな(笑)」


用務員のおじさんは、お母さんからラブレターをもらった、のあたりからグラウンドに立ち止まって、背後を振り返りながらお話していてくれました。

一通りお話が終わると、再び歩きはじめて、正面玄関の前まで私を運んでくれました。


用「嬢ちゃん、ちょっとここで、待っとってな?

工具箱だけ、用務員室に返してくるで、それから車で家まで送ってくから、ランドセル持って待っとってな?」


私「うん…。」


私は、正面玄関のドアに持たれるようにして置かれている自分のランドセルと黄色い帽子を取って、頭に被ってふたたび、グラウンドに面している階段の上に腰掛けて用務員のおじさんを待っていました。

頭の中で、さきほどおじさんに言われた言葉を反芻して、ひとりで黙って待っていました。


しばらくすると、作業着姿の用務員さんが戻ってきて、東玄関の側に置いてある車まで運んでくれると言います。

まだ、足腰が立たなかった私はランドセルを背負った状態で、再び用務員さんの背に負われたのでした。


用「嬢ちゃん、そういえば、さっきちょっと思い出した。
魔法使いのことな、ドルイドって言うらしいぞ?

ウチの娘が言っとったわ。」


私「どるいど?はじめて聞く言葉…。」


用「なんでも、土着の信仰でキリスト教より古い信仰だったそうだ。
キリスト教知っとるか?嬢ちゃん。」


私「イエス・キリストでしょ?クリスマスのお祝いする、十字架を首にかけている人達の。
この人が生まれた年が紀元だって習ったよ?」


用「そう、嬢ちゃんよく知っとるなぁ!」


私「どるいどは知らないなぁ。」


用「そう、あんまり表に出てきていないらしい。
確かケルトの信仰だと言っとったわ。」


私「ケルト?」


用「あぁ、イギリスとかあそこらへんの外国やな。

日本と同じ島国らしい。

樫の木を聖なる木とする教えらしいわ。

キリスト教やと、さしずめモミの木かな?」


私「どちらも知らない木みたい。」


用「クスクス、もともと外国の教えやからな、その国で自生する樹木やろ。

せやからあんまり日本では馴染みがないのかもしれへんな?

嬢ちゃん、大きくなったら、ケルトがある外国に行くといいんやないか?

そしたら、生身の魔法使いに出会えるかもしれん(笑)

きっと仲間やと感じて友達になれるで?」


私「そっかぁ、外国かぁ。
でも行けるのは大人になってからだなぁ、多分。

おじさんの娘さん、物知りなんだね。」


用「あはは、ワシの娘はワシと同じで学が足りんわ!
もう大学生やというのに、よぉも、役に立たん、ファンタジーの本を好んで読んでいるわ!
まぁ好奇心だけは旺盛かな?」


私「…おじさん、これは私個人の感じ方なんだけれど…。

子供は好奇心が旺盛で、いろいろなことに興味を持つわ?

大人と違って、自分でお金を稼げないし、現実的に自由に動きにくい。

経験が少ない分、まずは本から知識を吸収するものだと思うの。

本はページをめくるごとに、知らなかった世界を知ることができて、とても心が躍るわ?

ファンタジーなら、自由に空想の世界に意識の翼を広げて、その世界を楽しむものなの。

それを、自分の子供だからたいしたことない、って言い方をするのは、周りの人からひがまれたりしないようにとか、自分の子供を自慢するのは遠慮する気持ちから言っているのかもしれないけれど。

それを聞かされた子供は、心におもりをつけられたような心持ちになって、とても心細く、悲しく感じてしまうものだわ?

でも、人前で自分の親が、周りの人にそう言っているのを見ても、親に恥をかかせたくなくて、子供は黙っているものなの。

私、おじさんの娘さんなら、きっと思いやりのある、素敵なお姉さんだと思うの。

だから、せめて、人のいないところでは、自慢の娘だって言ってあげてほしいし、もっと言えば、人前でも、自分の娘が大好きだって言ってあげて欲しい。

そうしたら、娘さんもおじさんの娘であることを誇らしく感じると思うし、おじさんのことをもっと好きになると思う。

でも、おじさんの娘さんとおじさんなら信頼し合っている関係だと思うから、私の言ったことは口はぼったいことかもしれないわ。
それなのに、偉そうなことを言ってしまって、ちょっと心苦しく感じてしまうけれど、気になって言ってしまったの。

子供は親に味方になってもらいたいものなのよ?

口には出していなくても、自分の夢を応援してもらいたいと心の中では強く願っているものなの。

そんな風に、私は考えるのよ。
見当違いなことを言っていたら、ごめんなさいね?」


用「クスクス。
嬢ちゃん、育ちの良さが隠しきれてへんな?」


私「え?」


用「クスクス、嬢ちゃん、ワシの娘な?
イギリスに留学したいと思っとるんや。

それで、ワシ毎日10個ずつ、英単語を覚えているんや。

英語勉強するなんて、中学以来やで?
すぐ忘れてしまうけど、それでも、コツコツ続けとったら1・2年で千個二千個覚えられる。

そしたら、もし娘がイギリスに行ったらワシ追っかけて観光に行くわ。

ガイドさん無しに嫁さん連れて外国で遊んでくるんや。
そーゆー夢持っとるんやで?」


私「おじさん、それはとてもステキだわ!
娘さんのことも応援しているのね!
家族全員仲良くてすごくステキ!」


用「さ、お嬢さん、車につきましたよ、乗れるかな?」


私「うん。」


と、言って、おじさんが地面にしゃがむと、私はするりと降り立ちました。


私「あ。」


用「どないした?」


私「おっちゃん、今更やけど。」


用「なに?」


私「今、おんぶしてもらってたけど、アタシちょっとチビってたわ!
ごめん。」


用「え…、あ、まぁ、大丈夫やて!
さ、助手席乗りぃ!」


私「うん、うんしょっと…。」


おじさんがドアを開けてくれて、すこし背の高い軽トラックの助手席によじ登るようにして乗り込みました。

シートベルトを締めて、膝の上に自分のランドセルを乗せて着席しました。


まず、東玄関前まで、車を移動させ、校門を抜けると再び停車し。

おじさんは車を降りて、校門を閉めに行きました。


車の助手席の窓から眺める校門前の民家の様相が、さきほどとは打って変わって、青黒い夜空に黒々とした箱型の建物が軒を連ねているように見えました。

軽車両の細かいエンジンの振動を受けながら、疲れきった体でぼんやりと外を眺めていると、それは、何かとても禍々しいもののように思えてきました。


(…何か…何かを見落としているような気がするんだけれど…。)


青黒い夜空の中にそびえ立つ漆黒の家並みはまるで呪いの館を連想させて、なぜか私はゾッとしてきたのでした。

よく目をこらせば夜空に漆黒の雲がとぐろをまくように、とがった家の屋根の上に鎮座していました。


それは、まるでこれから私の一家を襲う不幸を予告しているような、誰かの命を差し出さねばその呪いは解けないのではないかという、猛烈な恐怖感に私は背筋がゾクゾクとし、心臓がバクバクと早打ちし始めました。


母『蛇のような人に目を付けられてしまった…』

母『もう、私の力が及びません…』


母の言葉に不吉な物を感じつつも、用務員のおじさんの、あれは娘を思う母親の姿だったというセリフに、心の内で私はその予感を無理に打ち消していたのでした。










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これで一区切りです

口外する用務員(少女時代77ー11)

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