外気温0°の12月のある日、私は全身ほぼびしょ濡れの状態で、職員用の女子トイレに4時間以上閉じ込められていました。

バアン!

と、大きな音を立てて、ドアが開くと同時に、照明が付けられました。


用「嬢ちゃん!!ごめん、見つけ出すの遅なって、スマンッ!

あぁっ!!」


暗闇の中から、一転して眩しい光を浴びましたが、私は、もう限界でした…。


用「なんじゃこれはっ!

なんで、こないに鎖が巻かれとるんじゃっ!

あぁっ!それに周り中、べしょべしょに濡れとるっ!

まさか、嬢ちゃん、体、水に濡れとるんかっ!!」


私は小さな声で、答えました。


私「オッチャン、もう、しんじゅ、もう、ダメや…。」


用「嬢ちゃん!気をしっかり持ちぃ!

体、濡れとるんかっ!?」


私「…ずぶ濡れや……。」


用「そんなっ!

こんな雪がふろうかっちゅう、こんな日に、なんで水責めするんやっ!

そんな子供おるんかっ!」


私「…おっちゃん、もう、しんじゅ、げんかいやわ…。」



用務員のおじさんは、女子トイレの扉にしかけられた鎖をほどこうと、ガチャガチャと一生懸命触っているようでした。


用「アカン!こんな人気のないこんなところで、何時間も閉じ込めれて、真っ暗で、もう夜やわ!

それに、なんや!この鎖っ!

どこから持ってきたんや!とても子供が持ち運べるもんやないでっ!

しかも、南京錠までかけられとるっ!

どこまで用意周到なんやっ!

あぁっ!これはセンカンの鎖や!」


私「センカン…?」



用「投票所になる時だけ使う、選管の鎖やわ!

駐車場にする仕切りで、何十mもあるやつで、とても小学生が運べる重さやない!

これは、体育館の奥の器具室に置いてある、記載台と一緒にしまわれている奴や!

いつのまにこんなの盗み出したんやっ!

見回りしたけど、どこもこじ開けられとらんかった。

鍵使って持ち出したんや!


鍵は用務員室にもない!

職員室の奥にある保管庫に厳重に管理されとるハズや。


鎖や鍵の場所を知っとるのは内部の人間だけや、犯人は子供やない、きっと卒業生も巻き込んどる!


それに、ぎょうさんの鎖を運ぶには箱に入れて台車で運ばん限り動かすのは無理や!

前日から罠を仕込んどいたんや!

嬢ちゃん、なんで、このひとけのないトイレに連れてこられたんや?」


私「クラスの子に、リスがいるって…。

ドアを開けて、立ってて、逃げようとしたら無理やり押されて…。」


用「あぁ、人が前に立って、罠に見えんように仕掛けられてたんやな!

ここのトイレ、嬢ちゃんのクラスの担当か?」


私「うぅん、6年生の…。」


用「今日の今日にはこれだけの仕掛け無理やわ。

きっと、今日は掃除しとらんのや!

ワシも最初、立ち入り禁止の札がかかっていて、見過ごしたんやわ!

何時間探しても、嬢ちゃんおらへん、諦めかけたとき、気づいたんやわ。


女子トイレが故障しとるなんて、報告、ワシ、受けとらんかった!

こんなきちんとした札が、イタズラやなんて、ワシ、気づかんかった!!

スマン、嬢ちゃん!

あぁっ、早よ助けたいけど、これは無理やわっ!

嬢ちゃん、もうちょっと待ちぃ!

必ず助けたるっ!

工具箱とってくるし、家に電話してくるわっ!」


私「…おっちゃん、もう、ダメやわ…。」


用「スマン!嬢ちゃん、これやるで、ちょっと待っとってな!」


トイレの上から、用務員さんの作業着の上着が投げ込まれました。

私はそれを手でつかむこともうまくできず、ただ頭の上に被り、ズルズルと水浸しになった、灰色がかった青いタイル目地の床に座り込んでしまいました。

意識がモウロウとして、もうれつな寒さでもう、頭が回りませんでした。


しばらくすると、用務員のおじさんが戻ってきて、ガチャガチャとなにかをやっていましたが、無理のようでした。


そして、再びトイレを後にすると、かなり大掛かりな器具を手にいれた模様で、なにか奮闘していたようですが、難航しており、そこに私の父の声が聞こえてきました。


父「しんじゅっ!大丈夫かっ!?

なんやこれはぁっ!

こないな事ってあるんかぁっ!!」


用「お父さん、お願いや!手伝ったってっ!!

嬢ちゃん、中でびしょ濡れなんですわっ!

もう、かれこれ4時間はこんな状態ですわっ!」


父「はぁっ!!

こんな寒い日に、びしょ濡れやとっ!?

正気かっ!

そんな所業するやつおるんかっ!」


外で大人二人がなにか格闘しているような気配がしました。


それでも、錠や鎖が切れなかったようです。

時々、声をかけてくれますが、自分でも何を答えていたのか、よく覚えていません。


目が回るとか、頭が痛いとか、気持が悪いとか、変な声が聞こえるとか言っていたような気がします。



用「あかん!こんな事しとる間に、嬢ちゃんがまいってまう!

そうやっ、お父さん、すんまへん、車のジョッキーとかありまへんかっ!

こうなったら、ドアを壊して、助けんと、嬢ちゃん、死んでまうっ!

ついでに、職員室でなにかないか聞いてきて、誰が手伝ってくれる先生を呼んで来てくださいっ!」


父「すぐとってきますわっ!

ちょっとまっとれや!しんじゅ!

必ず助けたるでなっ!」


しばらくしたら、父が戻ってきました。


父「職員室がどこかよく分からへんでしたし、先生は誰もいませんでしたわ!」


用「お父さん、自分のジョッキーはどうされました?」


父「車にはつんどらへんで、家まで戻って取ってきますわっ!」


用「それだと、どんなに急いでも20分はかかります。

それなら、私も職員室でなにかを探してきます!」


父「消防車呼んだ方が早いんじゃないですかっ!

それに救急車もっ!」


用「あぁっ!でも小学校に先生もおらんで消防車に救急車出動となると大騒ぎです。

小学校の管理責任が問われます。

ワシの首も飛ぶかもしれまへん…。

もうちょっとだけ待ってくれませんかっ!」


父「ほんなら、ワシも家に戻ってジョッキー取ってきます!

ちょっとまっとってください!」


もしかしたら、この会話は父と用務員さんで、逆転しているかもしれません。

私はかなり意識がモウロウとしていて、気持が悪かったのでした。


父がいなくなったあとも、用務員さんは、なにかをしていましたが、職員室に行ってくると言いおいて、再びひとりで取り残されていました。


しばらくすると、用務員さんが戻ってきて、ガチャガチャと音を立てて、錠を開けてくれました。

どうにかして、鍵を手に入れたようでした。


その時、ちょうど父が戻ってきて、ドアを開けてぐったりしている私を抱き抱えてくれました。


用「お父さん、ちょうど開きましたわ!」


父「しんじゅ!大丈夫かっ!うわっ!

お前、びしょ濡れで、キンキンに冷えとるやないかっ!

ジョッキーもって来れんかったけど、助かってよかったわ!」


父は、自分が着ていた上着を脱いで、私に被せましたが、私は自分で服を羽織ることもできず、床に倒れこみ。

それを父はおくるみをまとった赤ちゃんを抱くように、私を持ち上げたのでした。


私「おとうちゃん…おっちゃん…。

しんじゅ、トイレ汚してごめんなぁ。

片付け…」


私はトイレの中がびしょ濡れなのを謝っていたのでした。

トイレットペーパーで体を拭こうとしたのでしたが、全てびしょ濡れになっており、床に散乱していました。

濡れた雑巾もいくつか散乱していたのでした。


用「えぇからっ!

嬢ちゃん、ここはえぇから!後はおっちゃんがやっとく!」


父「すんまへん、コイツを今すぐ、連れて帰りますわっ!

顔も口も白いし、こりゃアカン!

うわっ!すごい熱持っとる!

いったい、全体どうしてこんなことになるんやっ!

そんで、なんで、学校の先生が一人もおらんのやっ!」


用「そんなハズないんです。

必ず宿直の先生はいるはずなんですが、なぜかいないんです!」


父「あぁ、それに、なんやこれ。

どないして、こんな長い鎖を仕掛けられるんや。

わけが分からん!悪魔の所業かっ!」


私が父の腕に抱かれて見たものは、トイレの横のモップ洗いにとぐろを巻いてしまわれている長いチェーンが蛇口のあたりでぐるりと巻き付き、その先がトイレの内側の高いところにある、荷物をひっかける棒にくくりつけられ、さらにその先がドアノブにも何重にも巻かれている様子でした。

そして、父に抱かれて職員用の女子トイレの扉を通り抜ける時に、私が見たものは。

黒々とした小学校の廊下に浮かび上がるように見えた注意札でした。


それはB4サイズの横向きの厚紙に、それより一回り小さいサイズの白い紙がきちんと貼られ、上部に几帳面に二箇所の穴が開けられ。

黒い綴り紐を二本繋いで長い紐状にして、額縁よろしくドアノブにかけられた注意札であり。


故 障 中
立入禁止
   小宮


と、大人が書いたと思われる、美しい文字で両面に仕上げられた注意札なのでした…。







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よびだし(少女時代80ー1)

これも一区切りです

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