私は商品棚に張り付くようにして、目の前の二人の大人のやりとりをガタガタと震えながら眺めているだけでした。

父親は口の端から白い泡を飛ばしながら、罵声を浴びせてきます。

私は、逃げ出したくても身がすくんで動けなかったのでした。



父「はぁ?ワシが犯人を捕まえてくれと頼んだんやで!?

依頼者のワシがもう用なしやと感じた以上、アンタには出てってもらうわ!

帰ってちょ!」


警「ちょっと待ってください。

ここで、私が帰っては職務放棄にあたります。

この子一人を責めても何も解決しませんよ?

とにかく、調査に協力してください。」


父「はいはい!調査に協力しました!

もう十分です!

さっさと帰れ!」


警「…お父さん、こんな事は言いたくありませんが。

犯罪が行われたのは事実です。

それを解決するのが我々の仕事なんですよ?


それを途中で投げ出せというのは、我々を侮辱しているのに等しい。

今はこの子から事情を聴いている最中なんです。


それを邪魔するというのなら、力ずくでなさってください。

そうしたら、公務執行妨害で私はあなたを逮捕します。」


父「はっ!
警察なんて言っても、頭の固いマヌケばっかりやな!

人様の税金でオマンマ食わせてもらっているだけのクセにエバりやがって!」


警「今のは聞かなかったことにします。

邪魔するというのなら、ここから退去を命じますよ!」


父「はっ!分かったわ!

おとなしゅぅしとれば文句ないんやろっ!

コイツが犯人で間違いないんやわ!」


父親は鬼のような形相で私を睨みつけてきました。


私「……!」


警「ちょっと邪魔が入ってしまったね。

落ち着いて、私の話に答えてくれるかな?」


私「………。」


おまわりさんは、再びひざを落として、私に向き合ってくれましたが、私は体が硬直して何も答えられませんでした。


お周りさんはため息をついて、立ち上がり、背後を振り返って父に声をかけました。



警「お父さん、あの子が萎縮してしまっています。

この子の視界に入らないくらい、遠いところまで移動してください。」


父「いやや!
こいつの嘘を聞き逃さんためや、動かん。」


警「なら、あちら側を向いてください。

場所を移動しなくても、声は聞こえるでしょう?

それと、私たちに会話に口を挟むのも禁じます。

でなければ、店内からの退去を命じます。」


父「ちっ!」


父は私に背を向けるようになりました。

私はまだガタガタと震えていたのでした。



警「お嬢ちゃん、しんじゅちゃんと言ったね?

このお店の手伝いは長いの?」


私「…うん…。」


警「そう、エラいね。
いい子だ。
私の質問に、答えてくれるかな?」


私「…うん…。」


警「そう、ありがとう。
君の勇気に感謝します。

さて、君が万引きに気づいたのはいつごろかな?」


私「…10月頃から…。」


父「なにぃ!」


警「お父さんは黙っててください!

そう。万引きに気づいた時、君はどうしたの?」


私「お母さんに言ったの。」


警「そう、それでお母さんはなんて?」


私「お母さんは、自分からお父さんに話すから黙っててって…。」


警「そう、お母さんが君に黙っていてって言ったんだね?」


私「うん、お父さんの機嫌をみはからってから話すから。

子供のしたことだから大ごとにしたくないって言ってた…。」


警「なるほど。

後からお母さんから詳しく話を聞いてみるね。

最初はなにが消えていると感じた?」


私「文房具が何度も消えているって思ったの。」


警「それから?」


私「それから…気づいたら、よくカニ缶が消えているなって思ったの。

それでお父さんに言ったの。」


警「他に気づいたことは?

なにか、この人の動きが怪しいって感じた事は?」


私「うぅん、鏡とかも注意していたから。

なにか盗みをしようとする感じの人は見なかったよ。」


警「そうか、そうだろうね。

きっと、君が店番をしている時間には犯人は現れなかったんだろう。

そうすると、だいぶ人間が絞られることになる。

協力、ありがとう。」


私「おまわりさん、犯人を捕まえてください。」


警「微力ながら努力するよ。

おつかれさまでした。」


父「なぁ、もう話は終わったんですか?」


警「えぇ、この子から聞くことは、もうほぼありません。」


父「コイツが犯人でしたやろ!」


警「…お父さん、その話はまた別の場所で…。」


父「はっきり言ったってください!
コイツが犯人やと!
刑務所にブチ込んでやってください!」


警「何を言っているんですか?

私の話を聞いていなかったんですか!?」


父「コイツ、さっき万引きがされとったの10月頃やと言っとりました!」


警「えぇ。」


父「コイツ、嘘ついてます。

カニ缶消えとる言いだしたの12月の事ですよ?

二ヶ月も黙っとった計算になりますわ!」


警「えぇ、ですから母親に話していたそうですよ?」


父「聞いとらんです。そんなの。」


私「え。」


警「それは御夫婦でよく話合いになられては?」


父「こいつ、万引きが随分前からされとったの、親に黙ってたんです!

そやから、コイツが犯人やと、ワシ確信しましたわ!」


警「…ですから、そこはお二人で話し合いを…。」


父「コイツが怪しいんですっ!
こいつ、自分が重たいもん運べへんからって、ネスカフェのゴールドブレンドを倉庫の側にワシに運ばせとったんです!クリープもっ!
これも、なんべんも、なんべんも盗まれとるんですっ!」


私「え?」


父「こいつが、運び出しやすいように、ワシを騙しかっとったんです!
こいつは人間のクズです!
死んだ方がいいやつです!
死刑にしたってくださいっ!」


私「ち、ちがう!
それはコーヒーが好きな新規のお客さんが来て、まとめ買いをしてったからで…。」


父「なにが新規のお客様や!

お前、何を寝ぼけとんのや!

コーヒーの瓶詰めを一度に箱買いする客を見とったんかいな!」


私「み、見てないけど、お母さんがそう言ってたから…。」


父「そんな話、ワシ、聞いとらんぞ?」


私「え、だって。お母さんが遠くから近所の会社に商売でくる、どっかの社長さんが買っていくって。」


父「近所の会社ってどこや?」


私「え、知らない。」


父「どこの会社のもんや?」


私「知らない。」


父「なんのために社長がインスタントを買うんや?」


私「え、社員に配るとか、お母さんが言ってた。」


父「そんな事、お母さん一言も言うとらんかったで?

お前、それがほんまの事やったら、なにか知っとるはずやろ!」


私「え、だって、そう聞いたから。」


父「お前、言うにことかいて、自分の母親を悪者にする気か?」


私「え、ちがう。だって、お母さんが、そう言ってたから…。」


父「せやから、お母さん、コーヒーの瓶詰めがたくさん消えとるの知らんかった言うとったで?

万引きがされとるのも、自分は知らない。

しんじゅが店番をしている時に、うっかりしてて、盗まれたんじゃないかと言うとったわ!

それなのに、お母さんが嘘ついてるん言うんか?」


私「え!そんな、お母さんがそんな事…。」


父「ワシ、お前に言われるがまま、ホイホイコーヒーの箱運んどったんやで?

ぎょうさん売れて嬉しいなって、お前はホンマに役に立つ子やと喜んで台車の下敷きまでこさえとった。

そやのに、お前は親の期待を裏切っとったんや!

ワシはとんだ道化や!

可愛さ余って憎さ百倍やわ!

お前は悪魔や!」


警「お父さん、その話は大人同士でなさってはいかがですか?

ウソをついているのが誰か、お二人でお話合いをされれば分かるはずです。」


父「ほらみい!

お母さんが嘘つくハズ、あらへん。

ワシと一緒に苦労して、この店、築き上げたんやで?

そんな苦労しとる人間が、店の商品盗まれて黙っとるハズないやろ!

せやから、店番しとった、お前が一番怪しいっちゅーんや!」


私「でも、でもちがう。

私、何も知らない!やってない!」


父「お前がカニ缶を換金して、ワシらの事、バカにしとったんや!」


私「カンキン…って、缶詰がお金になるの、分かんないよ…。」


警「ですから、お嬢さんに犯行は無理です。
落ち着いてください。」


父「いいや、コイツが黙しかっとったんが、怪しいんや!

コイツ、なんて強情な娘や!

自分が悪さしといて、母親に罪をなすりつけようとしとる!

こいつはもう、生かしておけん!」


父は私に再び殴りかかろうとしました。

おまわりさんが、お父さんを取り押さえて、私に逃げるようにと言いました。


私がガタガタと震えてなんとか、母屋へと逃げ込み。

そこから、ふすまを開けて、真っ暗な布団の中に潜り込みました。


涙がこぼれてこぼれてしかたありませんでした。







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