私「えぇっ!?そこに座るの?」



兄「あぁ、いいから、ちょっとここに座れ。」



私「え、でも…。」



兄「いいから、今日を逃すとまたいつチャンスが巡ってくるか分からないから。」



私「え…。あ、お兄ちゃん、畳のヘリを踏んでいるよ?」



兄「いいから、今日ぐらいおおめに見ろよ。

さ、ここに座って。」



私は少しおどおどとしながら、兄に促されるまま兄のすぐそばまで行き。

そして、黒檀でできた低いテーブルに腰掛ける仕草をしました。


兄も少し移動しています。



私「お兄ちゃん、そんな大股で畳の上を歩いちゃっていいの?

それに、ここに腰掛けると仏様にお尻向けることになっちゃうし…。」



兄「クス。

いいから、ここに座れ。

今日ぐらい弘法様もおおめに見てくれるって!」



そこは仏間でもあったので、仏壇の前にしつらえてある大きな黒いテーブルに私はちょこんと腰掛けました。

それは普段なら、絶対にやらないことなのでした。



その様子を兄はくすくすと笑いながら見守っていたのでした。



兄「…誰もお前を厳しくしつけられた子供だと見抜けないな…。

隣の家のアイなんて、お前のことを下に見てくるけれど、俺からすればあっちのほうがよほど育ちが悪い。

まったく、失礼な子供だ。

さっきもお前、几帳面に畳に収まるように寝転がっていた。

クスクス、お前の育ちの良さは、誰にも気づかれない。」



私「ねぇ、なんなの?」



兄「クスクス。

今は俺たち兄妹しかいない。

安心して、普段通りの言葉遣いに戻せ。」



私「そうなの?

それでは、お言葉に甘えて戻させていただくわ?」



兄「あぁ。」



私「ふぅ。

やはり普段から大雑把な言葉遣いをするのは、少々気が張るわね。

だいぶ慣れてきたと思うけれど、時々ボロが出てきてしまうようだわ?」



兄「あぁ、ここは閉鎖的な田舎だからな。

人と違うことをすると、どうしても注目を集める。

ある程度粗野なふるまいをするのも、必要なことなんだよ。」



私「えぇ。

どうして、他の方は人と違うということに寛容ではないのかしら?

私には、それがとても不思議に感じてしまうの。」



兄「あぁ…。

お前はそういう性質だからな。

融和性を重んじる、平和的な性格だから、周りのものを異質に感じてしまうのだろう。

しかたない、ここはとても貧しい地域だし、どうしても他の人間の取り分をなるべくぶんどろうという浅ましい考えを持つものも多い。

それだけ、成長する機会も与えられなかったし、それだけの能力を持ち合わせていないものも多い。

育ちからして精神性に重きを置く、教育を受けていないんだ。

ある程度は見逃してやれ、しんじゅ。」



私「えぇ…。

そうね、きっと価値観が異なる、ということでしょうね。」



兄「俺たちがこうやって話しているところを近所の大人に見られでもしたらエライ騒ぎになるだろう。

何を子ども同士が気取って話しているんだと、得意げに糾弾してくるだろうな。」



私「なぜなのかしら?

そこが私には理解不能なのよ。」



兄「劣等感を刺激されるんだろう。

こんな子供が、自分より精神性が高いと思い知らされるのを忌避するための攻撃行動だ。

そんな奴の劣等感をわざわざ刺激する必要もない。

だから、普段は自分たちの姿を偽っているのさ。」



私「大人になれば、普段どおりにできるのかしらね?」



兄「それは難しいかも知れない。

この田舎を飛び出せば、あるいは叶うかもな。

都会なら、隣近所の人間がどんな人間かなんて、たいして興味ももたないだろうから。」



私「それもさみしい気がするわ?

相互扶助の精神で近所の人間同士で助け合ったりするのも、地域の防災に役立つと思うのだけれど。」



兄「くす、お前の言うとおりだがな。

現実はそうはうまくいかない。

お互いが他人に迷惑をかけないように自助努力をするぐらいが、今のところベストなんだろうな。」



私「それなら、近所に住んでいる意味がないように思えるわ?

やっぱり心細い気がするもの。」



兄「それは理想論だけどな?

お互いの精神レベルが同列なら、それもまた可能だが。

人が何を考えているか深く付き合わないと分からないものなんだ。

だから、最初はあたらず、さわらず、そんなライトな付き合いでも仕方ないと俺は思えるんだがな。」



私「そうか…そうかもね。」



兄「お前は地元に密着した考え方をしているからな。」



私「うふふ、しんじゅ商会の看板娘よ?(笑)」



兄「俺たち一族も没落して、こうして市井に紛れている。」



私「えぇ?そんな言い方をすると、まるですごい祖先がいたみたいに聞こえるけれど…。

私は生まれた時から、この生活をしているから、その話はよく分からないわ?」



兄「くす。

お前は小さかったから覚えていないんだろうがな。

俺たちが本家と言っている家はそれでもまだ新家・分家なんだよ。

それより、2代前の本家はかなりの資産家だったんだ。

隣の町にある公共施設、あれはウチの土地だったし、市民病院の敷地も俺たち一族の土地だったんだよ。」



私「へぇ?そうなの、知らなかったわ?」



兄「いくら素封家と言っても、時代の流れがある。

今は資本主義の国なんだから、いつまでも祖先の財産で子孫の食い扶持が賄えるわけでもないのさ。

結局経営センスがモノを言う。

俺たちは新家として、本家から下に見られているけれど、俺たちはちがう。

己の才覚で経済社会を乗り切ってのし上がってやる。

俺たちの母ちゃんは万事控えめで、誰からも疎まれない。

それも経営センスの良さなんだ。

誰も俺たちの家が実は金持ちだと気づかれないしな。」







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